10月5日|今日は、少し痛烈な話を書きたいと思います。

【今日のニュースから考える|2026年10月5日】

今日は、少し痛烈な話を書きたいと思います。

日本には、世界でも極めて魅力的な山があります。雪質、森林、温泉、食文化、信仰、里山、水、四季、そして山のすぐ近くで続いてきた人々の暮らし。資源だけを見れば、日本は世界有数のマウンテンリゾート大国になっていても不思議ではありません。

でも現実には、世界のマウンテンリゾートと日本の多くの山岳観光地の間には、かなり大きな差があります。

一言で言えば、世界は「山全体を経営」している。日本はまだ「スキー場や観光施設を個別に経営」している。この差だと思います。


■ 世界では「冬のスキー場」から「365日のマウンテンリゾート」へ

フランスでは、春から秋に山で宿泊旅行をした人が30%。過去3年間の平均旅行回数は2.6回に達し、2025年の滞在者の約3分の2が「非常に満足」と回答しています。山はもう、冬だけの場所ではありません。

参考:https://www.atout-france.fr/fr/actualites/barometre-montagne-2026-focus-ete-les-francais-confirment-leur-attachement-la-montagne-0

スイスも象徴的です。スイス山岳会の山小屋は2025年に過去最高となる40万9,000泊を記録。そのうち冬季は9万泊、夏季は31万9,000泊です。つまり、山岳観光の主役が「雪だけ」ではありません。

参考:https://www.swissinfo.ch/eng/various/valais-tops-the-list-of-popular-sac-huts/91291271

カナダのウィスラーも同じです。冬は世界的なスキーリゾートですが、夏になるとマウンテンバイク、50km以上のリフトアクセス型ハイキング、トレイルランニング、展望、ヨガ、ファミリー体験、イベントなどに山の設備そのものを転用します。自治体自身も、夏季需要の拡大によって閑散期が短くなり、ウィスラーが国際的な「四季型リゾート」になったと評価しています。

参考:https://blog.whistlerblackcomb.com/2026/05/summer-in-the-alpine-returns-to-whistler-blackcomb/
参考:https://performance.whistler.ca/community-monitoring/occupancy-rate/

では日本はどうでしょう。


■ 日本は「雪」は世界級。でも「滞在設計」が弱い

実は観光庁自身が、この問題をかなり明確に認識しています。2026年の検討結果では、日本のスノーリゾートの課題として、地域一体の経営視点の不足、長期滞在環境の不足、ニーズの多様化への対応、地域への利益還元、索道施設への投資不足などを挙げています。

参考:https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics04_00079.html

かなり率直な指摘です。

つまり問題は、雪ではない。山でもない。温泉でもない。食でもない。それらを一つの滞在体験として編集し、地域全体で経営する力が弱い。ここが世界との差です。

日本には、スキー場がある。温泉がある。神社がある。郷土料理がある。トレッキングコースがある。森林がある。農村がある。祭りがある。でも、それぞれが別々に存在している地域が少なくありません。

海外の優れたマウンテンリゾートでは、それらを「一週間どう過ごすか」という視点でつなぎます。日本では、「今日は何を体験してもらうか」で終わってしまうことが多い。この差は大きいと思います。


■ 世界が売っているのは「リフト券」ではない

世界のマウンテンリゾートが販売しているのは、スキーだけではありません。

朝、山を歩く。昼、地域の料理を食べる。午後、文化や自然についてガイドから学ぶ。夕方、温泉やウェルネスを楽しむ。夜、地域の食文化に触れる。翌日は別の谷へ移動する。その次の日はマウンテンバイクや農村へ行く。

「山のある暮らし」そのものを商品にしています。

一方、日本には世界的にも強い素材があるのに、スキー場、宿泊、飲食、交通、文化、自然体験、ガイドが別々に販売されている。結果として、滞在時間も消費も地域内で分断されます。非常にもったいない。


■ しかも、日本には大きなチャンスが来ている

JNTOによれば、海外から来るスキーヤーは、日本人スキーヤーと比べて平均消費額が約4倍で、滞在期間も長い傾向があります。

参考:https://www.jnto.go.jp/en/news/newsletter_2025_10_3.pdf

そして観光庁は9月25日、「国際競争力の高いスノーリゾート」政策を更新し、長期滞在環境、多様な体験コンテンツ、グリーンシーズン、地域一体の経営への支援を明確にしています。今年は17地域が支援対象に選ばれています。

参考:https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/chihoyukyaku/snowresort.html
参考:https://www.mlit.go.jp/kankocho/kobo04_00070.html

つまり国の政策も、「スキー場を強くする」から、「マウンテンリゾートをつくる」方向へ変わっています。これは非常に大きな転換です。


では、何を変えればいいのか。私は少なくとも、7つあると思います。

■ ① 「スキー場」ではなく「山域」を経営する

スキー場単体ではなく、山、集落、温泉、農業、文化、交通までを一つのデスティネーションとして考える。行政区域より「山系」「水系」「文化圏」で見ることも必要です。

■ ② 冬の売上を増やす前に、365日の滞在理由をつくる

春は新緑。夏は沢、登山、昆虫、農業、マウンテンバイク。秋は紅葉、食、文化。冬は雪。「雪がなければ何もない山」から、「季節が変わるたびに行く理由が変わる山」へ。

■ ③ ガイドを「案内係」ではなく産業人材にする

世界の旅行者が求めているのは情報だけではありません。地形を読む。自然を読む。文化を読む。安全を管理する。地域の物語を伝える。そして参加者に合わせて体験を編集する。こうしたガイドを職業として成立させる必要があります。

■ ④ 「日本らしさ」を後付けしない

海外のマウンテンリゾートをコピーしても勝てません。日本には、山岳信仰、温泉、森林文化、発酵、水、農村、祭り、修験道、地域食があります。これは、日本の山にしかつくれない体験です。

■ ⑤ 交通を観光商品の一部として設計する

駅から宿。宿から登山口。山から温泉。隣の集落へ。ここが切れていると、旅行者は動けません。世界水準のリゾートでは、「移動できること」も商品価値です。

■ ⑥ KPIを「来場者数」から変える

見るべき数字は、平均宿泊日数、一人当たり地域消費額、ガイド利用率、地域内調達率、再訪率、住民満足度、自然環境への還元額です。

100万人が通過する地域より、10万人が5泊して地域でお金を使う方が、豊かな場合があります。

■ ⑦ 最後に一番重要なのは「地域経営者」をつくること

ホテルの経営者でもない。スキー場の経営者でもない。旅行会社でもない。山全体の価値を見て、人・自然・文化・交通・宿泊・食・投資をつなげられる人。

世界との最大の差は、施設ではなく、この「地域経営機能」なのかもしれません。


【今日の問い】

「日本に世界級の山があるのに、なぜ世界級のマウンテンリゾートが少ないのだろう?」

私は、資源不足ではないと思います。むしろ逆です。

日本は資源が豊かすぎる。だから、それぞれが個別に成立してしまった。

スキー場はスキー場。温泉は温泉。神社は神社。森林は森林。農業は農業。観光は観光。

でも、世界が競争しているのは、「山という地域全体で、どれだけ豊かな時間をつくれるか」です。

日本が本当に世界と戦うなら、リフトを新しくするだけでは足りない。ホテルを建てるだけでも足りない。外国人を呼ぶだけでも足りない。

必要なのは、自然、文化、暮らし、食、人、交通、宿泊、教育、ウェルネス、サスティナブルツーリズム。それらを一つの地域体験として束ねること。そして、その収益を自然保全、人材育成、地域文化へ戻していくこと。

日本の山には、世界と戦える素材があります。

足りないのは、「資源」ではなく、それを一つの産業として編集し、経営する仕組み。

ここを変えることができれば、日本の山岳地域は「冬に人が来る観光地」から、「世界から人が滞在しに来るマウンテンリゾート」へ変わる可能性がある。

今日のニュースを見ながら、私はそこに大きな伸びしろを感じています。


宮入正陽
株式会社 東京山側DMC 代表取締役

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